サイコホラー小説とは、心理的恐怖に重点を置いたホラージャンルの一種です。幽霊や超常現象ではなく、人間の内面に潜む狂気や闇を描き出すことで読者に強烈な恐怖を与えます。
通常のホラーと違い、サイコホラーは「人間が持ちうる異常性」「狂気の深層」を丁寧に掘り下げ、時に共感できてしまう恐ろしさがあります。犯罪者や殺人鬼の視点から描かれることも多く、その異常な思考プロセスを追体験することで、読者は日常では味わえない恐怖を体験するのです。
特に日本のサイコホラー小説は緻密な心理描写と社会性を絡めた作品が多く、単なる恐怖だけでなく、社会批評としての側面も持ち合わせています。読後に「人間とは何か」という哲学的問いに向き合わせる重厚さも、このジャンルの大きな魅力です。
サイコホラー小説のおすすめランキングTOP15
第1位:悪の教典(貴志祐介)
サイコホラー小説の金字塔と言われる貴志祐介の代表作です。英語教師・蓮実聖司は生徒からも教師からも慕われる優秀な教師ですが、その実態は冷徹な殺人鬼でした。
彼が手にかける「悪」の対象は、モンスターペアレント、不良生徒、淫行教師など、社会的に「悪」と見なされる人々。その独自の倫理観と圧倒的な知性で完璧な犯罪を繰り返していく姿に、読者は恐怖と共に奇妙な共感を覚えます。
2010年に発表され、第1回山田風太郎賞を受賞した本作は、2012年には深作健太監督により実写映画化も実現しました。サイコホラー小説の頂点に君臨する作品です。



この小説のすごいところは、主人公が完全悪なのに読んでいると応援したくなっちゃうところだよ。蓮実先生の頭の良さと計画性に感心しちゃって、気づいたら悪に共感してるっていう罪悪感がたまらない!
第2位:殺人鬼 覚醒篇(綾辻行人)
『十角館の殺人』で知られる本格ミステリの巨匠・綾辻行人が放つスプラッター・ホラー小説です。ある夏、双葉山でキャンプをする「TCメンバーズ」の面々が次々と猟奇的な殺人の犠牲になっていきます。
B級スプラッター映画を思わせる過激な描写が続く本作ですが、随所に散りばめられた伏線が物語の最後で鮮やかに回収され、読者を驚愕させます。グロテスクな表現の奥に隠された巧妙な仕掛けが、この作品の真価です。
後に『殺人鬼 逆襲篇』も発表され、殺人鬼シリーズとして多くのファンを獲得しています。ホラーとミステリの融合が見事に成功した傑作と言えるでしょう。



グロい描写が苦手な人は絶対読まない方がいいよ…。でも最後まで読むと「そういうことだったのか!」って膝を打ちたくなる展開にクラクラする。綾辻先生の頭の中、覗いてみたいけど怖いな〜。
第3位:黒い家(貴志祐介)
貴志祐介の初期の代表作で、第4回日本ホラー小説大賞を受賞した作品です。生命保険会社に勤める若槻慎二が顧客の家で少年の首吊り死体を発見したことから始まります。
死亡保険金の不正請求を疑った若槻は独自に調査を開始しますが、次第に菰田家の狂気に巻き込まれていきます。特に菰田妻・由美の異常性は、読む者を戦慄させるほどのインパクトがあります。
幽霊や怪異が登場しない純粋な心理サスペンスでありながら、人間の狂気がもたらす恐怖は超常現象をも超える強烈さを持っています。2022年にはNetflixでドラマ化もされた不朽の名作です。



映画も有名だけど、小説の方がじわじわくる恐怖が半端ないんだよね。菰田家に一歩足を踏み入れたら最後、抜け出せない恐怖の渦に巻き込まれていく感覚が文字からビリビリ伝わってくる。夜一人で読むのは絶対おすすめしない!
第4位:十三番目の人格 ISOLA(貴志祐介)
多重人格の少女・三上雛子に宿る13番目の人格「イソラ」を巡る恐怖の物語です。12の人格を持つことが診断された雛子に対し、医師たちは謎の13番目の人格の存在を疑います。
患者を殺害したとして医療少年院に収容された雛子を調査するため、女医・万城目えりなが派遣されますが、そこで次々と明らかになる衝撃の真実に読者は息を飲むことでしょう。
多重人格という題材を独自の解釈で描き、貴志祐介ならではの緻密な伏線と衝撃的な結末が印象的な作品です。2012年に角川文庫として再刊され、多くの読者を魅了し続けています。



多重人格モノとして読み始めたのに、想像を超える展開に夢中になっちゃった!雛子ちゃんとイソラの関係性がどんどん謎めいていくスリル感がたまらない。最後の真相を知った時は本当に頭がクラクラしたよ。
第5位:リカ(五十嵐貴久)
第2回ホラーサスペンス大賞を受賞した五十嵐貴久のデビュー作です。平凡な会社員・本間が出会い系サイトで知り合った「リカ」という女性が、次第に恐るべきストーカーへと変貌していきます。
家庭を持つ本間は軽い気持ちでリカと関係を持ちますが、彼女の異常な執着は次第にエスカレートし、本間の日常が徐々に破壊されていく過程が克明に描かれます。
後に『リハーサル』『リターン』『リバース』と続編が刊行され、「リカシリーズ」として高い人気を誇っています。2019年にはドラマ化もされ、高岡早紀の怪演も話題となりました。



リカの執念深さが怖すぎて、SNSで知らない人とやり取りするのが怖くなる作品だよ…。長い黒髪を振り乱して追いかけてくるリカの姿が、読んだ後も頭から離れなくて眠れなくなった思い出がある。女の執念の怖さを知りたい人、必読!
第6位:告白(湊かなえ)
湊かなえのデビュー作にして、本屋大賞第1位を受賞した衝撃作です。中学校の教師・森口悠子が授業中に行った衝撃の「告白」から物語は始まります。「娘は事故で死んだのではなく、このクラスの生徒に殺されたのです」。
視点が次々と変わる構成により、同じ事件が複数の視点から描かれ、次第に全体像が浮かび上がる手法が斬新です。少年犯罪、いじめ、思春期の心理など、様々なテーマを孕んだ重層的な一冊です。
2010年には中島哲也監督により映画化され、松たか子の演技も高く評価されました。サイコホラーとしての恐怖だけでなく、社会派小説としての読み応えも十分な作品です。



最初の「告白」シーンから鳥肌が止まらなかった…。森口先生の冷静さの下に隠された感情と、生徒たちの歪んだ心理が交錯するたびに息を飲んじゃう。映画も小説も両方素晴らしいから、セットで体験してほしい傑作!
第7位:殺人勤務医(大石圭)
優秀な中絶専門医・古河誠司の二重生活を描いた衝撃作です。周囲からの信頼も厚く、人当たりの良い医師である古河ですが、彼には誰にも明かせない秘密がありました。
「生きるに値しない命」と彼が判断した人々を次々と誘拐し、地下室に閉じ込め、恐ろしい方法で殺害していくのです。しかし彼の行動には特別な意味があり、その真の目的が明かされる結末は読者に強烈な衝撃を与えます。
医学的知識に裏打ちされたリアルな描写と、主人公の冷徹な思考過程が鮮明に描かれる本作は、2002年の発表以来、サイコホラーファンの間で高く評価され続けています。



医師という立場を利用した完璧犯罪の恐ろしさがリアルすぎて、病院に行くのが怖くなるレベル…。古河先生の頭の中の論理が冷静に書かれているのに、どこか共感できてしまう自分が怖くなる不思議な読後感があるよ。
第8位:新装版 殺戮にいたる病(我孫子武丸)
東京の繁華街で起きる連続猟奇殺人事件を通して、犯人・蒲生稔の歪んだ心理と行動を克明に描いた衝撃作です。被害者を凌辱し、残忍な方法で殺害する蒲生の狂気の根源には、ある「愛」の形が隠されていました。
犯人の視点から書かれた独白体の文章は、読む者を不安と恐怖の中へ引きずり込みます。しかし最後に明かされる真相は、読者の想像を遥かに超える驚きをもたらすでしょう。
「叙述トリックミステリの最高到達点」とも評される本作は、1987年の初版以来、何度も版を重ね、2017年には新装版も刊行された不朽の名作です。



この小説は本当に気持ち悪い…でもそれがいい!犯人の思考に入り込んでいくうちに、自分の中の何かがざわざわしてくるような感覚がたまらない。最後の真相を知った時の「え?」という感覚は、他の小説では味わえないよ。
第9位:インシテミル(米澤穂信)
『氷菓』などの青春ミステリでも知られる米澤穂信が放つダークサスペンスです。「ある人文科学的実験の被験者」として高額報酬を約束された12人の男女が、密室空間に閉じ込められます。
彼らを待っていたのは、仲間の中に紛れ込んだ「殺人者」を探し出す残酷なゲームでした。互いを疑い合い、次第に精神的に追い詰められていく参加者たち。その行方を描く緊迫の展開は、読者を最後まで手放しません。
2016年には映画化もされ、野村周平、葉山奨之らが出演して話題となりました。ミステリとサイコホラーのエッセンスが絶妙に融合した一作です。



人が追い詰められたときの心理変化がリアルすぎて怖いんだけど、ページをめくる手が止まらなくなる不思議な魅力がある!誰を信じていいか分からなくなる感覚を、読者も一緒に体験できるのが素晴らしいよね。
第10位:マリアビートル(伊坂幸太郎)
伊坂幸太郎の「殺し屋シリーズ」の一つで、東北新幹線の車内を主な舞台にした物語です。息子のために復讐を誓う殺し屋・木村、謎の美少女・蜜柑、そして一見優等生に見えながら冷酷な内面を持つ少年・王子など、個性的なキャラクターが織りなすサスペンスです。
特に、大人を翻弄することに喜びを感じる少年・王子の異常性は、読者に強い印象を残します。優しい表情の裏に隠された冷酷さと知性が、静かな恐怖を呼び起こします。
伊坂幸太郎らしい軽快な文体と複雑に絡み合う人間関係、そして予測不能な展開が魅力の一作です。



伊坂さんの小説ってテンポが良くて読みやすいんだけど、この作品の「王子」ってキャラがマジで怖い…。あんな子が実際にいたら絶対に関わりたくないよ。見た目と中身のギャップがサイコホラーとして最高レベル!
第11位:天使の囀り(貴志祐介)
貴志祐介の初期の代表作で、都市伝説に近い恐怖を描いた作品です。東京近郊の街に突如現れた奇妙な噂「天使の囀り」。この囀りを聞いた者は自殺してしまうという都市伝説が若者の間で広まっていきます。
心理カウンセラーの高山珠緒は、自殺した少女の調査を依頼され、次第にこの不可解な現象の核心に迫っていきます。しかし、その真相は彼女の想像をはるかに超える恐ろしいものでした。
2000年に発表され、貴志祐介の名を世に知らしめた記念碑的作品です。心理的恐怖と社会派要素が見事に調和した傑作と言えるでしょう。



タイトルの「天使の囀り」って何なのか分かった瞬間、背筋が凍る感覚があったな〜。日常に潜む恐怖という点では、貴志さんの最高傑作の一つだと思う。読み終わった後も、何気ない音に敏感になっちゃうよ…
第12位:絶対正義(秋吉理香子)
「正義」という概念に取り憑かれた少女・範子を中心に展開するサイコサスペンスです。中学時代、範子の異常な「正義」に苦しめられた由美子たち4人の女性は、ある日、彼女を殺害します。
しかし5年後、死んだはずの範子からの招待状が届き、彼女たちは再び恐怖の渦に巻き込まれていきます。人間の心に潜む「正義」という名の狂気が引き起こす恐怖を描いた本作は、2018年にはドラマ化もされ、話題となりました。
「正義」が持つ両義性と、それに取り憑かれた人間の恐ろしさを鮮明に描き出した秀作です。



「正義感の強い人」って実は怖いよね…。範子の「絶対的な正義」に基づく行動が、どんどんエスカレートしていく様子に背筋が寒くなった。自分の身近にもいそうな人物だからこそ、リアルな恐怖を感じる作品だよ。
第13位:この世の春(宮部みゆき)
ベストセラー作家・宮部みゆきによる時代サイコホラーです。江戸時代後期の下野北見藩を舞台に、御用人頭の嫡男をめぐる騒動から始まるこの物語は、やがて小国全体を揺るがす大事件へと発展していきます。
表面上は時代小説の体裁を取りながらも、人間の深層心理や狂気を鋭く描き出す宮部みゆきの手腕は、本作でも遺憾なく発揮されています。特に「業」に取り憑かれた人々の姿は、読む者の心に深い闇を落とします。
2016年、作家生活30周年記念作として発表された大作で、サイコホラーとしての恐怖と歴史小説としての奥深さを兼ね備えた傑作です。



時代小説なのにこんなにサイコホラーとして怖いなんて…宮部さんすごい!江戸時代という設定がかえって恐怖を増幅させる効果があって、人間の業の深さに震えたよ。長編だけど一気読みしちゃった!
第14位:羊たちの沈黙(トマス・ハリス)
FBI研修生クラリス・スターリングと、元精神科医で連続殺人犯のハンニバル・レクターとの知的駆け引きを描いた傑作サスペンスです。「バッファロー・ビル」と呼ばれる連続殺人犯の捜査のため、クラリスは精神病院に収容されているレクターに協力を求めます。
冷徹でありながら比類ない知性と洞察力を持つレクターの存在感は圧倒的で、読者を恐怖と魅了の間で揺さぶります。1991年に映画化され、アンソニー・ホプキンスの演技も高く評価された本作は、サイコスリラーの金字塔と言われています。
日本語訳は単行本と文庫で翻訳が異なりますが、どちらも高い翻訳レベルで原作の恐怖を余すところなく伝えています。



ハンニバル・レクターって史上最高のサイコキラーかも…!知性と狂気が同居する彼の姿に恐怖と魅力を同時に感じちゃうんだよね。映画も有名だけど、小説はさらに深くキャラクターの心理に入り込めて最高。
第15位:私の家では何も起こらない(恩田陸)
2010年に発表された恩田陸によるサイコロジカルホラーです。「何も起こらない」はずの「私の家」で次々と起こる不可解な出来事を通して、家族の歪みと秘密が徐々に明らかになっていく物語です。
表題作を含む連作短編集の形式を取りながらも、全体として一つの大きな物語を形作る構成は見事です。日常の中に潜む違和感と恐怖を丁寧に掬い上げ、読者の不安を徐々に増幅させていく恩田陸の筆力が光ります。
ホラー要素はあくまで控えめながら、読了後に残る「居心地の悪さ」は純粋なホラー小説以上に読者の心に長く残るでしょう。



タイトルとは裏腹に「色々起こる」家の話なんだけど、その「何も起こらない」という言葉の裏に隠された家族の病理がじわじわ怖い…。恩田陸さんの文体の美しさと相まって、独特の不穏さが心に残る作品だよ。
まとめ:サイコホラー小説のおすすめランキングから見えるジャンルの魅力
サイコホラー小説の魅力は、超常現象や怪物ではなく、私たちの身近に潜む「人間の狂気」を描き出す点にあります。本記事で紹介した15作品は、それぞれ独自のアプローチでこの「狂気」を追求し、読者に強烈な恐怖体験を提供してくれます。
ランキング上位に貴志祐介の作品が多く登場したことからも分かるように、彼はこのジャンルの第一人者です。『悪の教典』や『黒い家』『十三番目の人格』など、いずれも完成度の高い傑作揃いです。
また、綾辻行人や湊かなえ、伊坂幸太郎など、異なるジャンルで活躍する作家たちもサイコホラーに挑戦し、それぞれの個性を活かした作品を生み出しています。
サイコホラー小説を読む際は、単なる恐怖体験を超えて、そこに描かれる人間の本質や社会の闇に目を向けてみてください。そうすることで、より深い読書体験が得られるはずです。
2025年、さらに魅力的なサイコホラー作品が登場することを期待しつつ、まずはこのランキングから気になる作品を手に取ってみてはいかがでしょうか。